Leap before you look.


時系列は5.3以降、ひろしとラハくんを付き合ってないけど性的な関係にしたくて書きました。お楽しみください。


2024-04-29 10:40:42
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「頼みがあるんだ」
 グリダニア・フォールゴウドの浮かぶコルク亭。その一室のベッドの上でグ・ラハは冒険者と向き合っていた。
 湖の上に浮かぶ宿。ゆったりとした空間と名画の数々。内装や他の宿泊客の身なりを見るに、かなり良い宿のようだった。
 英雄の頼みならば、と内容も聞かぬまま二つ返事でグ・ラハはここまで連れられてきた。
 しかしどこにも寄り道せず宿へ直行する必要のある頼みとはなんだろうか?
 グ・ラハは疑問に思いつつも冒険者の言葉を待った。

 冒険者は手持ちの袋から手のひらに収まるくらいの瓶を取り出し、二人の間に置いた。その動作はどこかぎこちなく、グ・ラハは首を傾げた。
「それは?」
「⋯⋯錬金薬、だ。まだ正式には流通していないんだが。試作品ってやつだな」
 そういえば冒険者は錬金術師ギルドにも所属していたことをグ・ラハは思い出す。
「これがあんたの頼みと関係が?」
「ああ。こいつを使って結果を報告しろって、ギルドマスターから依頼されちまってな」
 そう言いながら冒険者の視線は下に逸れていき、気まずそうに頭を掻く。どうにも歯切れが悪い。もしかしたらリスクのある薬なのかもしれない。グ・ラハは考えを巡らせた。
 いちばん憧れの英雄が他でもない自分を頼ってくれたのだ。こんなに嬉しいことはない。たとえ危険があろうとそれに応えたい。絶対に彼の役に立ってみせる。
「ええと…その薬になにか懸念があるのか?オレにできることなら遠慮しないで言ってほしい。大丈夫だ、多少ではあるが薬の知識も第一世界で身につけてきた。もっとも原初世界で通じるかはわからないがーー」
「いや、害があるもんじゃない。ないんだが⋯⋯」
 熱が入り前のめりになったグ・ラハに対し冒険者はますます口ごもる。肩透かしを喰らいながらもグ・ラハは続けた。
「じゃあ何の薬なんだ?害がないにしても、あんたがそこまで困ってるって尋常じゃないぞ」
「⋯⋯⋯⋯潤滑剤」
「潤滑?なんの滑りを良くするんだ?」
「なんの、って⋯⋯ッだああもう、アレだよアレ! 夜の営みに使うやつ!!」
 突然噴き上がった冒険者にグ・ラハはきょとんとする。ややあって意味を理解したが疑問は一向に解消しなかった。
「夜の、って⋯⋯それがなんでオレと関係あるんだ?」
「う⋯⋯だから、その⋯⋯グ・ラハに相手を頼めないかって」
「は、え⋯⋯⋯⋯えぇ!!?」
 先ほどの冒険者と負けず劣らずの素っ頓狂な声が響いた。全く思ってもみなかった頼み事にグ・ラハの尾は限界まで膨張し、制御の効かぬ耳も忙しなく前後に動く。
 パートナーはいないのかと尋ねるとそんなものはいない、と返された。そういうサービスの店を利用してはと提案もしたが、薬品類の持ち込みは御法度だと教えられた。
「パートナーがいる他のギルドメンバーに頼めなかったのか?」
「ギルドマスターが変わり者でな。俺の使用結果を聞くまで開発を先に進める気がないんだと」
「に、人気者は大変だな⋯⋯」
 あの野郎『お前なら引く手数多だろう』とか簡単に言いやがって、そんな訳あるかよ⋯⋯と冒険者がぼやき、そこで会話が途切れてしまった。気まずい沈黙が部屋を支配し始める。

 グ・ラハにとって冒険者はかけがえのない大切な人で、憧れの英雄で、仲間だ。自分の存在理由だと言っても過言ではない。しかし、そのようなことをする対象だとは、これまで認識していなかった。冒険者がどう思っているのかは分からないが、仲間として信用されていると感じていた。
 だから今の状況がうまく飲み込めない。ただ、頭ごなしに拒絶したくはないと思った。
「⋯⋯どうして、オレなんだ?」
 素朴な疑問が口をついて出た。冒険者をまっすぐ見据え穏やかに問いかけると、外されていた冒険者の視線がグ・ラハに戻った。
「女性だと万が一があるだろ。だったら同じ男に頼むしかない、ってなって、最初に浮かんだのがお前だった」
 冒険者の言葉にグ・ラハの心臓が小さく跳ねる。それを悟られぬよう顔を伏せ、続きを促した。
「グ・ラハなら断られるにしても茶化したり、馬鹿にしたり、周りに言いふらしたりしないと思った。どうしたらいいか一緒に考えてくれるんじゃないかって⋯⋯」
 口を尖らせ訥々とわけを語る冒険者は、普段の堂々とした姿とはかけ離れ、まるで幼い少年のようだった。
 頼みの内容は一旦置いておくとして、グ・ラハが冒険者から自分に対する気持ちを直接聞けたのは初めてだった。
 思っていたよりずっと純粋で、温かく、掛け値のない信頼だった。状況が状況でなければ喜びのあまり飛び上がって拳を握りしめていただろう。
 グ・ラハは浮ついた感情を抑えるように片腕をさすり、務めて冷静に理由はわかった、と答えた。
 冒険者から見ると嬉しげに耳は上向き、尻尾も揺らめいているので内心の察しがついてしまったのだが、グ・ラハ本人は知る由もなかった。

「それで⋯⋯やっぱり駄目か?」
 全てを吐き出し、どこか吹っ切れた表情の冒険者に問われ、グ・ラハは現実の問題を思い出した。
「駄目というか、断ったらオレが役に立てることってないよな」
 一緒に考えるにしても、グ・ラハが考えうる方策は全て却下されてしまった。性行為の相手探しなど経験がない。自分より冒険者の方がよっぽど詳しそうだ。
「それは気にするな、無茶苦茶な頼みなんだから。話を聞いてくれただけでもかなり救われた。ありがとな」
 冒険者はいつものように優しく笑い、グ・ラハの肩を軽く叩いて錬金薬の瓶をしまう。諦めともとれる言動に、グ・ラハの負けず嫌いの性分が刺激された。
「ちょっと待ってくれ。オレはまだ断ってないぞ」
「いや断る前提で話してただろお前」
「う⋯⋯」
 いやでも、とかあんたどうするんだ、などとモゴモゴしていると冒険者は少し眉を顰めてグ・ラハに向き直った。
「じゃあ相手してくれるのか?」
「そ、それは⋯⋯わからない。でも嫌なんだ、あんたが困ってるのにオレがなにもできないのは」
 今度は自分が子供のように駄々をこねていると思った。だがこれが本音だった。
「気持ちはありがたいんだがな⋯⋯」
 冒険者は腕を組み考えるような仕草を見せた後、グ・ラハに一つの提案をした。
「それなら少し試してみるのはどうだ? 俺がお前に触れて、無理そうならそこで打ち止めだ」
「な、なるほど⋯⋯それくらいなら! わかった。やってみよう」
 何をどこまで触れるのかは分からなかったが、冒険者なら無体を強いることはないだろうという信用があった。

 グ・ラハは意地を張った手前もあり、自らベッドに乗り上げ冒険者に近づいた。
 二人分が寝ることを想定されているだろう上等な寝台は軽く音を立て、グ・ラハの体重をやすやすと受け止める。
 冒険者は一瞬躊躇ったように目を伏せた後、両手でグ・ラハの頬を包み込み、額を寄せた。
「どうだ?」
「ん、あったかいな⋯⋯というかあんたちゃんと寝たか? いつもより隈が濃いぞ」
「それはお前に言われたくない。嫌ではなさそうだな?」
 ぐっと近づいた距離に照れ臭さを覚えたグ・ラハは話を逸らそうとしたが、冒険者には通じなかった。観念して嫌ではないと頷く。嫌どころか心地よかった。そんな自分に少し驚いた。
 常人より大きく節くれ立った冒険者の手は、しばらくグ・ラハの頬の感触を確かめた後、首筋に降り賢人の証をするりと撫でた。色情の濃い触れ方にグ・ラハの背筋が震える。
「大丈夫か?」
「ん、あ、ああ⋯⋯あんた、やっぱりこういうの慣れてるのか?」
「やっぱりって何だよ。⋯⋯慣れてるってほどじゃないが、全く経験がない訳ではないな。ちなみに男は初めてだ」
 元々聞きかじりの知識としてはあったし、今回のことで色々調べておいたけどな、と続けられグ・ラハは俯いた。このまま拒否しなければ本当に実践することになる。
 グ・ラハも男同士でもできる、ということは知っていたが、自分とは無関係だと思ってこれまで生きてきた。そもそも他人と行う性体験とは無縁のまま現在に至っていた。アラグの研究に没頭していて興味がなかったし、第一世界でも使命を最優先にしていた。あの状況で誰かと契る気など起きようもなかった。
 だから冒険者に相手をしてほしいと言われた時、驚きはしたが実感はなかった。明確なイメージがないから嫌悪感も肯定感も湧きようがなく、ただ冒険者の困りごとをなんとかしたいという気持ちだけで踏み出した。
 それがこの触れ合いで急速に実感が伴ってきた。お試し程度の軽いものだったとしても、グ・ラハにとっては性的意図をもって触れられるということ自体が初めてだった。
 下を向いたまま固まってしまったグ・ラハを見て冒険者が肌から手を離す。
「ここまでにするか」
「ッ⋯⋯いや、まだ、わからないから」
 更に困ったことに、未だにこれが嫌なのか、良いのか、はっきりしなかった。相手が言葉を尽くしても表せない程グ・ラハにとって大きい存在だからなのか、馴染みのない接触に戸惑う一方で彼ならばという気持ちも芽生えていた。冒険者から差し出された信頼の言葉や、頬を包まれた時の心地よさが脳裏に焼き付いている。自分から離れた冒険者の手をグ・ラハは引き留めていた。
 煮え切らないグ・ラハの態度に、冒険者は手を引くことも、前に進むこともできなくなっているようだった。お互いの動きが止まり、空気が重くなる。

 しばらくして冒険者は逡巡するように唸った後、腹を決めた様相でグ・ラハに迫った。
「もっとわかりやすい方がいいかもな」
「え?」
 言うや否や、グ・ラハの下腹部に冒険者の手が潜り込んできた。直接的な場所への侵入に全身がカッと熱くなり、腰がわななく。
「ちょっ、うわ、マジかよ!?」
 反射的に脚を閉じたが、冒険者はそれより先にグ・ラハの中心に辿り着いていた。下履きの上から指でやわく上下に擦られ、鼻から声が抜ける。
「っふ、んん、う⋯⋯」
「どうだ? 気持ちいいとか悪いとか、あるか?」
 わからない、といいかけてグ・ラハは口を噤んだ。この言葉のせいで冒険者を迷わせている自覚があった。いい加減はっきりさせなければ彼にも失礼だと思った。
「ッ、オレ、こういうの、初めてで」
「だろうな」
 経験がないのを察されていたことに羞恥と僅かな悔しさを覚えて、更に頭に血が昇った。しかし挫けずにグ・ラハは口を動かす。
「でも、なんか、どうしよう」
「⋯⋯どうした?」
 冒険者の顔が見られない。話をしていてもなお止まらずに蠢く手に追い詰められ、弄ばれるグ・ラハの欲は萎えるどころか膨らむ一方だった。情けない声が漏れた。
「ひっ、ぅ、うう、あっ、どうしよう、あんたに触られるの、たぶん、これ、⋯⋯すきだ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 グ・ラハがやっとの思いで冒険者の方を見ると、彼の顔から表情が消えていた。軽く俯いており長めの前髪に眼が隠れているので、そう思えるのかもしれなかった。いつの間にか手も止まっていた。
 ざあっと血の気が引き、熱が嘘のように冷えていく。これまで自分のことに精一杯で抜け落ちていた。冒険者の気持ちはどうなのだ?
 男は初めてだと言っていた。グ・ラハに気を遣ってくれていたが、そもそもこの状況自体が彼の本意ではない。その気になってしまった自分に引いたのかもしれないとグ・ラハは思い至った。
「あ、あんたは、どうなんだ」
「⋯⋯⋯⋯」
 声が震えた。気遣われるばかりで、彼の気持ちを慮れなかった自分に怒りを覚えていた。何が彼の役に立ちたいだ。何もできていないではないか。感情が高乱下したせいかいつもより抑えが効かない。
「オレに触るの、嫌じゃなかったか? 気持ち悪くなかったのか? ⋯⋯オレに触られるのも、嫌だったりするか?」
 グ・ラハは勢いで冒険者の膝に乗り上げ、自分にされたのと同じく彼の中心に手を遣った。
「え⋯⋯」
 そこは無表情とは対照的に、煮えたぎるような熱をもっていた。顔を上げると、これまで見たことのない水っぽいぎらぎらとした冒険者の瞳がグ・ラハの紅い髪の色を反射させていた。
「あんた、これ」
「⋯⋯すまん、興奮しすぎてどうしたらいいかわからなくなってた」
 グ・ラハはそのまま手をひかれ冒険者に抱きすくめられた。数々の戦いの中で鍛え上げられた身体の感触と、汗ばんだ濃い彼の匂いが鼻腔いっぱいに広がり、先刻以上の昂りが尾のつけ根を起点にして全身を駆け回った。
「な、なんだよ、それッ! まぎらわし⋯⋯」
 無意識に互いの腰が揺れ、熱と熱が触れ合う。冒険者のそれは、グ・ラハのものよりも数段逞しいものだった。
 明け透けに雄の格差を刷り込まれるのも、もはや興奮の材料にしかならない。発情するとはこういうことか、と頭の片隅に残ったグ・ラハの理性が自嘲する。
 その最後の理性をも奪うように、冒険者の荒い息と言葉がグ・ラハの耳にねじこまれた。
「嫌なんかじゃない。グ・ラハがいいなら、続けたい」
 グ・ラハは言葉で応える代わりに、冒険者の背に手を回し、きつく抱き締めた。


 服を脱ぎしばらく身体を触り合ったあと、グ・ラハは冒険者によりベッドに横たえられた。腰に枕を差し込まれたところで、自分が抱かれる側なのか、と気づいた。
 今日何度目かも分からない驚きだったが、知識も経験も乏しい自分が無理をして冒険者に負担をかけてしまうのも忍びない。グ・ラハはそのまま冒険者に委ねることを選んだ。
「やっとこいつの出番だな」
 冒険者が熱っぽい顔で錬金薬の入った瓶を取り出し、蓋を開ける。
「その⋯⋯それは、油とは違うのか?」
 あられもない格好をしている今の状態から気を逸らすべく、グ・ラハは錬金薬について問いかけた。
「ああ。油と違って乾くとベタつかなくなるんだ。滑りもぬめりも油よりいい。こういうこと専用に作られたモンだからな」
「へぇ、錬金薬にも色々あるんだな」
「性行為だって健全な人間の営みの一つだからな。需要があればそれに応えるまでだ」
「にしたって体張りすぎな気もするけどな」
 そいつは変人のギルドマスターにいってくれ、と冒険者は苦笑した。
「ああそうだ、これにはもう一つ特長があってな⋯⋯」
 色気のない会話から空気を戻すように、冒険者の目が妖しく細められる。グ・ラハはぎくりとして身を引こうとしたが冒険者にのし掛かられ失敗に終わった。
 瓶が傾けられ中からとろりとした薄橙色の液体が顔を出す。向かう先はグ・ラハの性器だった。
「ひっ!? あ、れ⋯⋯」
「あったかいだろ。いちいち手で温めなくていいし使われる側も気持ちいい」
 錬金薬を垂らされた部分がじんわりと熱をもつ。すかさず冒険者の手がその部分に添えられ、竿に刺激を与えつつ塗り広げられる。
「んっ、あ、うぁ⋯⋯っ」
 緊張から萎れ気味だったグ・ラハの熱が再び頭をもたげ始めた。
「こいつでぬるぬる擦るのヤバいよなぁ」
 被っていた皮をを引き下げ先端にも液体を追加される。ぬめった先の口を親指でぐじ、と穿たれるとこれまでになく強い快感に襲われ、グ・ラハの腰はがくんと揺れた。
「ぅ、あうっ!? なんだそれッ、何して⋯⋯!」
「先っぽあんまいじったことないか? 覚えとくと一人の時も愉しめるぞ」
 鼻歌でも歌いそうな程上機嫌な冒険者をグ・ラハは睨めつける。
「あんたさっきと態度違わないか!?」
 先ほどまでの真摯な冒険者はどこへ行ってしまったのか。いつもと同じといえば気楽かもしれないが、やっている内容は全く気楽ではない。
「ん、まあ最初はお前になんて言われるか分からなくて緊張してたからな。グ・ラハが思ったよりノッてくれてるし、俺も今楽しい」
「そ、そう見えるのか⋯⋯そう、なのか?」
 日頃から多種多様な事件に巻き込まれているせいか、冒険者の適応力が高すぎる。このままどこまで連れて行かれるのか。目を白黒させっぱなしのグ・ラハは少しわくわくするような、泣きたいような気持ちになった。

 宿の一室に、ぬちぬちと湿った音とくぐもった男の声だけが響いている。比較的小さいはずの音たちは、グ・ラハの鋭敏な聴覚ではいやに大きく感じられた。
「ふっ、う、うぐ⋯⋯っ」
「だいぶ馴染んできたな」
 グ・ラハの後孔には冒険者の指が複数埋められ、攪拌するように蠢いている。冒険者の丁寧な動作と錬金薬の助けもあり痛みはないが、なかなかの違和感だった。
 おまけに冒険者の体が脚の間を陣取っており、強制的に大きく脚を開く体勢になっていて酷く恥ずかしい。
 グ・ラハが眉を顰め細く息を吐くと、冒険者があやすように前を擦る。違和感のなかに覚えのある気持ちよさが混じり、脳が勘違いを始めた。
「⋯⋯そろそろ試してみてもいいか」
 冒険者の指がグ・ラハ自身も触れたことのないような箇所ーー陰嚢と後孔の間を押し込むと、むずむずした感覚が生まれ声が上擦った。
「あっ!? うわ、え、こんどはなんなんだ⋯⋯ッ!」
「ここ、いいか? 個人差あるらしいんだが」
 気遣うように冒険者は尋ねるが、手元の動きは容赦がない。絶妙な力加減で揉み込まれ、グ・ラハは追い詰められた。
「あ、ん、んん、良いというか⋯⋯かゆい?痛くはっ、ぁう、ない⋯⋯っ」
「多分それ、気持ちいいんだと思うぞ」
 耳元で湿った低い声に教えられた。グ・ラハの脳がさらに勘違いを深めていく。
 ここが快いならこっちも、と冒険者が呟き、後孔に埋まったままだった指がさらに奥に押し入ってきた。
「ぅ、あう、まだなにかあるのかよ⋯⋯」
 グ・ラハは体力気力に自信がある方であったが、泣き言が出るくらい消耗していた。まだまだ余裕で楽しげな冒険者が恨めしい。
「んっ、この辺か?」
 冒険者の指がある一点を押し込んだ。
「〜〜〜〜っ!!?」
 先ほど揉み込まれた箇所で感じていたものを何倍にもしたような衝撃に襲われ、頭が真っ白になり体が大きく跳ねる。
 何が起こったのか理解が及ばず、グ・ラハは目を見開き口をはくはくと動かすことしかできなかった。
「大丈夫、ではなさそうだな」
 そう言いながらも冒険者は動きを止めず、刺激を続ける。
「ぅああ、あ、ひぅっ、なんでっ、おかしいだろッ⋯⋯こんなの!」
「おかしくはねえよ。男ならみんな持ってるもんを弄ってるだけだ」
 安心させるような優しい手つきで冒険者に髪や頬を撫でられる。
「うぅ、ほんとなのか⋯⋯?」
 百年以上生きていても、知らないことはいくらでもあるものだなとグ・ラハはぼんやり思った。
「ところで⋯⋯このままいくとここを俺ので擦ることになるんだが、いけそうか?」
 絶望的な宣告が頭上から降りかかる。グ・ラハが思わず冒険者の股座を見やると、先ほど触れた時から更に存在感が増しているそれと出くわし、喉がヒュッと鳴った。
「はあ!? いや、さすがにこれは、」
「⋯⋯やっぱ無理だよなぁ」
 おおげさにため息をつく冒険者にグ・ラハはむっとする。
 これは、挑発されている。さすがに分かる。分かるのだが…
「まあ、錬金薬の試用って意味ではもう十分だしなぁ」
「⋯⋯⋯⋯そう、か」
 グ・ラハの尾が不服とばかりに暴れ回る。
「シャーレアンの賢人・元クリスタリウムの統治者様でも、冒険の途中でビビってリタイアすることくらいあるよなぁ」
 べしり。一際大きく尻尾が寝台を叩いた。安い挑発と頭で解っていても、聞き捨てならない。それに、このままでは冒険者にやられっぱなしで終わりだ。
 グ・ラハは投げ出していた上体を起こした。冒険者の顔を上目で見ながら彼の怒張を手に取り、扱きあげる。
「あんまりオレを甘く見るなよ⋯⋯?冒険者殿」
「決まりだな」
 冒険者がにやりと笑い後孔から指を引き抜くと、グ・ラハはんっ、と小さく甘い声を漏らしてしまった。
 馴染んでいたものがなくなり、なんとなく落ち着かない。グ・ラハの肉の縁が喪ったものを求め、僅かに開閉した。それを見下ろす冒険者の眼は、ギラギラとした欲望を湛えている。
 長いことグ・ラハと繋がっていた指先は、すこしふやけていた。


 まんまと冒険者に乗せられた。退路を自分から断ってしまった。
 冒険者によって再びベッドへ仰向けに縫い付けられたグ・ラハは、早くも後悔していた。
「あ、あっ、ううっ⋯⋯」
 張り詰めた冒険者の分身が、グ・ラハの後孔から裏筋にかけてをゆっくりと往復し、その刺激でグ・ラハのモノも冒険者とともに育っていく。
「ぅぐ、どこまで大きくなるんだよ、それ⋯⋯」
「ふ⋯⋯ぅ、知らねぇよ」
 どうやら冒険者は興奮が一定に達すると、真顔になり口数が減るらしい。
 グ・ラハが盛大な勘違いをしてしまった原因なのもあり、少々恐ろしかったが、普段の気さくな振る舞いとのギャップがたまらないとも思えた。
「⋯⋯いれるぞ」
「ッ⋯⋯!! あ、ああ」
 怯えたように耳が頭に張りつき、尾は内股にしまわれる。それでも強がりでグ・ラハは口の端を上げ冒険者をまっすぐ見据えた。
「あんたの好きな時に、いつでも」
 間髪入れずにまるい切っ先がグ・ラハの後孔に突き立てられた。
「ぅ、ぐうっ!?」
「っ⋯⋯力抜けるか?」
 そう言われても身体のどこに力が入っているかわからなかった。首を横に振ると、冒険者の手がグ・ラハの下腹部に伸び、意識を散らすように前を刺激する。
「んっ、んぅ⋯⋯!」
 一番手軽で親しみのある快楽を与えられ、下半身のこわばりが解ける。冒険者はその隙を見逃さなかった。
「ひっ!? あ、うぁあ⋯⋯」
 腰を押し進められ、グ・ラハの喉が引き攣る。指とは比べ物にならない質量だった。
 しかし十二分に慣らされた肉の輪はゆっくりと、確実に冒険者のものを呑み込んでいく。
「あっあっ、うわっ、なんでっ⋯⋯むりなのに、入るんだ!?」
「ッ⋯⋯」
 グ・ラハの悲鳴に煽られたのか、冒険者の背は丸くなり、腰を軽く揺すった。
 それに呼応して、グ・ラハの内側がただ侵入者を許すだけでなく、性感を与えるようにうねる。
「っなあ、あんた、オレになにしたんだ、変だろ⋯⋯これえッ!」
 ただ排泄するだけの器官が、冒険者によって別のものに作り変えられている。そんな心地がして、恐怖とも快感ともつかない涙が滲んだ。
「ああ。変、かもな」
「っふぐっ、うぅうっ⋯⋯」
 半ば恐慌状態のグ・ラハに冒険者は覆い被さり、最初に触れた時と同じように両手でグ・ラハの頬を包んだ。
「でも、お前の中、きもちがいい」
「っあ⋯⋯」
 これまで与えられるばかりだったものを、彼に与えていることに気がついた。折れかけていた心が奮い立つ。
 グ・ラハは頬に添えられている手に自身の手を重ね、中でどくどくと脈打つ冒険者を意識しながら問いかけた。
「オレ、どうすればいい」
「ん⋯⋯?」
 ぐっと顔を近づけ、額に額をこすりつける。
「どうしたら、あんたも、オレも、もっと気持ちよくなれる?」
「!」
 冒険者の瞳孔がひらくのを見た直後、視界が暗くなり、口の中に熱くぬめったものが入ってきた。
 ややあって冒険者に舌を吸われているのだと理解した。グ・ラハは目を閉じてそれに応じ、同じものを絡める。
「んっ⋯⋯ふぁッ⋯⋯」
「はぁっ⋯⋯グ・ラハ、お前、やっぱすごいな。⋯⋯⋯⋯かっこいい」
「っ! いちばんカッコいいあんたにそう言われても、な⋯⋯」
 グ・ラハは妙にこそばゆくなり、耳と尾をばたばたと暴れさせた。しかしぜんぜん、全く、悪い気分ではなかった。

「一緒に腰、動かせるか」
「ん、やってみる」
 冒険者がグ・ラハの太腿を持ち直し、止まっていた動きを再開する。
 それに合わせてグ・ラハも腰を浮かせ、ぎこちなく揺らした。
 腹に軽く力を入れて結合部を絞ってみると、たまらないとばかりに肉の杭が震え、膨張する。
「う、ぐっ、俺の息子で遊ぶなよ⋯⋯っ」
 冒険者の分身は、本人よりよっぽど素直でわかりやすかった。思わず口元が緩んだ。
「あんたも散々オレで遊んでただろ」
 これまでのお返しだとばかりに続けて肉を喰み、腰を先ほどより大きめに揺らした。
 冒険者の顔が快感で歪むのが見え、更に気分が良くなる。確かにこれは楽しいかもしれない。
「ッ、おい⋯⋯⋯⋯グ・ラハ」
「あ」
 まずい、と直感した。冒険者の目が据わっている。調子に乗りすぎた。
「初めてだし、全部入れなくてもいいと思ってたんだが。そんだけ余裕なら、いらん気遣いだったな。すまん」
「え、いや、そういうわけじゃ⋯⋯ちょっと待っ、!?」
 グ・ラハは冒険者の膝の上に跨るような姿勢をとらされた。腰に腕を回され、下腹同士が密着する。逃げられない。
「な、なあ、わるかった、せめて元に戻してくれッ、入るわけないのにっ、これじゃ⋯⋯ほんとに全部、っ!」
 危機感を覚えているはずなのに、どういうわけかグ・ラハの分身は膨れ、先走りを垂らしふるふると期待に震えていた。
「んッ⋯⋯これ、使い切っとくか」
 言葉とは裏腹なグ・ラハの昂りを肌で感じていた冒険者は、聞く耳を持たなかった。余っていた錬金薬を、結合部からまだ入りきっていない竿にまで全てぶち撒けた。
「いっ、あっ、あ!!」
 冒険者の腕に力が入り、ずぶずぶと下に沈められていく。
「あ、だ、ダメだこれ、勝手にっ! あああぁっ⋯⋯」
 自重と錬金薬の滑りもあり、ほどなくしてぐぷん、と根元まで飲み込んだ。
「〜〜〜〜ッッッ!!!」
 衝撃でグ・ラハの背は大きくしなり、汗と涙が宙に舞った。
 腰の拘束が解け、今度は両手で掴まれた。小刻みに揺さぶられる。
「ふ⋯⋯っ、んん、この辺、だったよな」
 先刻冒険者に暴かれた泣きどころをぐりぐりと押し上げられ、頭の中で火花が散った。
 強すぎる性感を逃がそうと、無我夢中で冒険者の首に手を回し、縋りつく。
「あううっ、んっ、これすき、すきだっ…あんたのでそこっ、もっと、いっぱいつぶして、うああッ、!」
 グ・ラハはもう自分がどんな言葉を発しているのか、わからなくなっていた。
「ふは、すげぇ締まってる、最高…ッ」
 冒険者のうっとりとした声が耳を撫でる。それすらも快楽と認識したグ・ラハは、密着した腹と腹の間で、精を吐き出した。
「はーっ⋯⋯⋯⋯ん、うぅ⋯⋯」
 グ・ラハがくたりと目の前の身体にもたれ掛かると、冒険者の切羽詰まった声が荒い息とともに聞こえた。
「グ・ラハ⋯⋯悪い、もうちょっとだけ、つきあってくれ⋯⋯っ」
「んぇ、あ⋯⋯?ひぅっ!」
 再び仰向けに倒されたあと、冒険者がグ・ラハの中からずるりと出ていく。それにすら快さを覚え、グ・ラハは少し泣いた。
「脚、きつめに閉じてくれ」
「? こう、か⋯⋯?」
 惚けた頭では、何が行われるのか全く見当がつかない。グ・ラハは冒険者に言われるがまま、太腿をぴたりと合わせる。
 脚を抱えられ、グ・ラハの太腿の間に冒険者のはち切れそうな欲が突き入れられた。
「は⋯⋯ぇ!? な、ぁっ、あんた何してんだ!?」
「んっ、中に出したら腹壊すらしいから⋯⋯ッ」
「はあッ!? だからってこんなとこですんのかよ、ぅぁあっ⋯⋯」
 限界の近い冒険者が無遠慮に腰を打ちつけ、肉のぶつかり合う音がする。
「お前もッ、ここ擦られんのいいだろ⋯⋯!」
「ひぁっ、あっ、気持ちいー、けどッ! イッたばっかでごりごりされんの、つら⋯⋯!」
「ッ、は、ラハ⋯⋯⋯⋯っぐ、ぅ、〜〜〜っっ!」
 勢いよく放たれた冒険者の精は、重力に負けてぼたぼたと落ちていき、グ・ラハの性器、下生え、腹にかけてを白く染めた。
「ふー⋯⋯っ⋯⋯」
「は、うぅ⋯⋯⋯⋯」
 射精を終えた冒険者は、グ・ラハの横に倒れこんだ。
 気だるげな視線が交差すると、どちらからともなく舌を差し出し、軽く吸い合う。
 グ・ラハがねだるように冒険者に尾を擦り寄せると、望み通りに抱擁が与えられた。
「へへ⋯⋯⋯⋯」
 グ・ラハはほとんど溶けてしまった頭で冒険者への想いを呼び起こす。このようなことになる前と変わりなく、想いは胸の裡にあった。
 ただ、通常であれば越えることのない壁の向こうで見つけた欲望は、思いのほか身近に感じられた。これも同じ根からできているものだと悟った。
 グ・ラハはそれを迎え入れることに決めた。"それ"はこれまでの彼への想いに混じって、繋ぎ目なく器に収まった。


 身体を清めた後、グ・ラハは疲労から何もする気が起きず、ぐったりとうつ伏せでベッドに転がっていた。かろうじてシャツと下履きだけ着直すことはできた。
 冒険者はまだ余裕があるようで、ベッドの隣にある机で軽めの納品物づくりをこなしている。
「なあ⋯⋯あんた、本当に男初めてだったのか?その、手慣れすぎじゃないか⋯⋯?」
「本当だぞ。まあ、ケツいじるのに関しては事前に自分ので試したけどな」
 衝撃の発言にグ・ラハは思わず飛び起きた。
「は!? た、ためっ、試した!? あんたが!? 自分で自分のを!?」
「そりゃそうだろ。ぶっつけ本番で仲間のケツをどうこうするわけにもいかねぇし」
 自分がされていたあれやこれを、彼が?
 思わず想像してしまった。平時であれば引いてもおかしくない告白であるが、グ・ラハの頭は茹っていて正常ではなかった。心臓が早鐘を打ち、顔と下半身が熱くなる。
 あまりにも分かりやすいグ・ラハの興奮ぶりを目の当たりにした冒険者は、呆れを含みつつもはにかんだ。
「おまえ、物好きだな」
「お、お互いさまだろ⋯⋯!」
 男は初めてといいながら、一回も萎えずにやり遂げたあんたも相当だろう、とグ・ラハが言うと、冒険者の作業の手がわずかに止まった。
「いや、それはお前が⋯⋯」
「ん?」
「⋯⋯なんでもない。ちなみに、グ・ラハの方が俺より尻の才能あると思うぞ。最初からあんな派手に気持ちよくなれる奴、そういないんじゃないか?」
「ううっ、言わないでくれ⋯⋯自分でもびっくりしてるから⋯⋯」
 おそらく相手が冒険者だったからこそだ、とまっすぐ口にするのはさすがに恥ずかしかった。グ・ラハは代わりの言葉を冒険者に手渡すことにした。
「⋯⋯あのさ」
「うん?」
「あの錬金薬、試作品なんだろ。手直しができたら同じ依頼をされるんじゃ、ないか?」
「ああ。そうかもな。⋯⋯⋯⋯⋯⋯その時は、また、お前に頼むよ」
 今はまだ建前が必要だが、そう遠くないうちに不要になる。そんな予感がした。

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