◇◇◇
あの日からペンダント居住区の冒険者の部屋は、水晶公への奉仕の場となった。
お互いに多忙の身であったが、その合間を縫って逢瀬を重ねた。
水晶公は身体に依る欲を持たない分、精神に依るところで快楽を得ているようだった。
冒険者は自分から喋るより聞き役に回ることが多い性分もあり、水晶公の性感を煽るような言葉を巧みに操ることはできなかった。
その代わりさまざまな方法で、触れる指先で、彼を悦ばせようと心を尽くした。
わざと何をしているかがよく見えるような体勢で弄ったり、逆に後ろを向かせ何をされるかわからないような状況にしてみたりと、いろいろな工夫をした。
時には少々強引に責めてみると、冒険者の心配をよそに水晶公は悪い気はしていない様子だった。
冒険者が与える分だけ、水晶公は悦びで応えてくれた。
自分が抱いた罪悪感で彼を哀しませてしまったことに対し、少しでも罪滅ぼしができているような気がして、冒険者の心は満たされていた。
しかし、問題があった。
冒険者の身体の欲は、満たされなかったのである。
「ふ……う、っ」
ひとり用にしては広すぎる部屋の隅でベッドに腰掛け、冒険者はくぐもった声を漏らす。
水晶公が帰ったあと、冒険者は自らを慰めることが常となっていた。
脳裏に映る先ほどまでの水晶公の艶姿を無理やり頭から追い出し、無心で分身を擦る。
彼との最中に自分が催しているのを悟られないようにすることが、日に日に難しくなっていた。
気を抜くと指の代わりに自分の怒張を彼の後孔にねじ込み、好き勝手に腰を振り立てたい衝動に駆られてしまう。
自分の中に潜む暴力性は、いつも戦いの中で発散させてきた。
それが、特定の個人――しかも命の恩人で、大切にしたい人に向くことは初めてで、どうしてよいかわからなかった。
「う、ぐっ、んんッ……!」
量の増えてきた先走りを潤滑剤にして、乱暴に手を上下させると腰が勝手に動いた。ベッドがぎしぎしと不快な音を立てる。
追い出したはずの水晶公の姿が勝手に頭の中に戻ってくる。絶頂を前に理性の薄れた冒険者は、想像の中で彼を自分の欲望のまま犯しつくした。
「うあ、はぁ、うっ! ~~っ!」
前屈みになって吐精した後、べっとりと濃い白濁がついた手をぼんやりと見つめた。
「はっ……うぅ……くそ………っ」
射精後特有の気だるさと自己嫌悪に苛まれ、冒険者はうなだれた。
心だけで求める水晶公に比べて、身勝手な獣の欲に振り回される自分が、ひどく汚れて醜いものに思えた。
それから日ならずして、冒険者が恐れていたことが起きてしまった。
「ぁ、はぁっ、うぁああっ……」
水晶公はベッドにうつ伏せになって高く腰を上げ、冒険者の指を下の口で食んでいる。
初めての時一本しか入らなかったそこは、今やすんなりと三本の指を受け入れていた。
冒険者が指をばらばらと動かすと、水晶公の尾が悩ましげに動き、感じ入った声が漏らされた。
垂れ下がった茎からは涎のようにとろとろと透明な液体が流れ、自らのローブを濡らしている。
「…………」
「んっ……?」
冒険者は水晶公が達する前に、指を引き抜いた。
不思議そうにこちらを見る水晶公をよそに、冒険者は彼の太腿を両手で掴んだ。
そして、自らの舌を、水晶公の蕩けきった後孔に押し当てた。
「はあっ!? ちょっ、何して、ッ!」
「さっき風呂で中まで丁寧に洗ったから、大丈夫だろ」
汚いだろうと喚く水晶公を無視して、冒険者はつぷりと舌を突き立てる。抵抗することを忘れてしまった蜜壺に、やわらかく舌を迎え入れられた。
「ふぁ、あぅうっ、どうりで、いつもよりしつこかったわけ、だッ……」
想像の中で散々手酷く犯している隘路を粘膜で割り開いていく感覚に、頭がぐつぐつと煮えたぎり、腰がずんと重くなる。
こんなのありえない、という言葉とは裏腹に、腰を揺すって中へ中へと侵入者を引き込んでいく彼の動きが、冒険者の欲を更に煽った。
唾液を増やしてじゅるじゅると音を立てて吸うと、いつもと違う感覚と強い羞恥に煽られたのか、水晶公の茎から透明な液体がぷしゅっと噴き出した。
「ぁ、あー……っ、うぅう……」
「んむっ、ん、ぷはっ」
冒険者は舌を抜き彼を解放する。
すると水晶公は脱力してしまい、そのまま冒険者の股座に、下肢をへたりこませた。
「ッ!? おいっ、」
「え………?」
冒険者がまずい、と思った時にはすでに遅かった。
彼に、いきりたつ自身の欲が触れていた。
慌てて水晶公を引き剥がし、向かい合わせに座らせる。彼の視線は、なおも主張を続ける冒険者の分身に向けられていた。
「……その、あなたも、興奮していたのだな」
冒険者の頭に血が上り、耳が熱くなる。
「すまん……」
「……いや、ほっとしたよ。私だけが愉しんでいて、あなたに無理をさせているのではないのかと思っていたから」
「っ!」
なにが罪滅ぼしだ。自己満足に浸り、水晶公の気持ちなど考えられていなかったのだ。
「あなたも、同じだったのだな」
ぎくりとする。自分は、彼と繋がることを、心でも求めているのだろうか。
今の自分は、肉欲に溺れかけている。
「……違う……」
「え……」
「違うだろ。俺のと、お前のは」
水晶公がはっと息を呑む音が聞こえた。
「………そう、だったな」
また、哀しませてしまった。ぎりぎりと胸が痛む。
けれど水晶公は微笑い、俯いていた冒険者の頬に左手を添えた。
「でも、やりたいことは、きっと同じだ」
「ッ……!」
「あなたと、繋がりたい」
冒険者は自身に伸ばされた水晶公の手を掴む。このまま少しでも前へ押せば、彼は簡単に倒れてくれるだろう。
冒険者の中の獣が叫ぶ。欲を満たせと暴れ狂う。
歯を限界まで食いしばり、それを寸前で押さえつけた。
掴んだ水晶公の手を頬から外し、押し返す。顔を見ることはできなかった。彼はきっとまた哀しそうに笑って、冒険者を赦すのだろう。
「………少し、考えさせてくれ」
◇◇◇
冒険者がスパジャイリクス医療館の前を通りかかると、館長のシェッサミールに声をかけられた。
「あなた、この前薬の素材をたくさん納品してくれたでしょう……? 本当に助かったわぁ……。紫葉団との戦いで負傷者が多く出たから、不足していたのよぉ」
ギルドリーヴに出ていた大口依頼のことだろう。冒険者は頷いた。
「それに、戦いも手伝ってくれたんでしょう? 夜を取り戻してからも、働き詰めのようねぇ……? あなたも、公も」
シェッサミールの目が妖しく光る。嫌な予感がした冒険者は退散しようとしたが、彼女の方が一手早かった。
「はい、特製のお薬よぉ……。今、ここで、飲んでちょうだいねぇ」
薬瓶を手渡され、冒険者は苦い顔をした。観念して、闇色のそれを一気に飲み干す。相変わらず、この世のものとは思えないくらいの苦さだった。
「それと、公にも渡しておいてもらえるかしらぁ……?」
「……俺が?」
水晶公とは、あの日の夜以来会っていなかった。冒険者はなかなか答えを出せず、彼を避けていたのだ。
ギルドリーヴの依頼をこなしていたのも、これまで水晶公に割いていた時間を埋めるためのものだった。
「誰かさんが最近顔を見せなくなって、公の耳が萎れっぱなしだってライナが言ってたわ」
「………………」
シェッサミールは冒険者にもうひとつの薬瓶を手渡し、『よろしくお願いね』と微笑んだ。
「………公は、ずっと皆のために休まず働いてきたわ。今も、そうだけれど。だから、公のためにできることがあれば、なにかしたい。この街の多くの人は、そう思っているの」
「そうか……」
冒険者にもその気持ちはよくわかった。
水晶公は赤の他人である冒険者のために、百年を費やし、命さえ捧げようとした。
だから自分も、水晶公に返したい。
欲によって歪んでしまったが、始まりはそういう気持ちだったはずだ。
冒険者はシェッサミールに礼を言い、街を駆け、水晶公の姿を探した。
水晶公は、クリスタリウムが一望できる高台にいた。
「相変わらず、高いところが好きなんだな」
冒険者が後ろから声をかけると、水晶公の耳がぴんと持ちあがる。歩を進め、水晶公の隣に立った。
「ほら、これ。医療館からの差し入れだ」
「………これは」
「今、ここで、飲めよ?」
薬瓶を手渡され、水晶公は苦い顔をした。観念したように、闇色のそれを一気に飲み干す。
「……相変わらず、この世のものとは思えないくらい苦いな……」
「っ……! はははっ! 本当に、な」
冒険者は、久しぶりに心の底から笑うことができた。
水晶公は、いきなり笑い出した冒険者を見てきょとんとしていたが、つられて笑顔になる。
「クリスタリウムの民は、本当に強く育ってくれた」
水晶公は目を細め、慈しむように街を見下ろした。それから、慕わしげに隣の冒険者を見つめる。
「なによりあなたが、今、こうして生きて笑ってくれている。……決して、失うばかりの百年ではなかったさ」
「水晶公……グ・ラハ……」
冒険者は、彼の肩を引き寄せ、抱きしめた。
「………ありがとう。お前が俺にしてくれたこと、一生、忘れない」
「ああ……」
腕の中の水晶公は、ゆっくりと頷いた。
冒険者は彼の髪に軽く顔を埋める。
「お前と、もっと、一緒にいたい」
理由なんて、それだけで十分だったのかもしれない。ずいぶんと遠回りをしてしまった。
彼の両腕が冒険者の背に回り、胸に顔を押しつけられた。
「………今夜、あんたの部屋に行っても、いいか?」
冒険者は頷き、彼を抱く腕に力を込めた。
◇◇◇
夜の帳が下り、水晶公が冒険者の部屋にやってきた。
ふたりはまっすぐ寝台へ移動し、服を脱がせあった。
冒険者が部屋の明かりを落とす。
間接灯の光だけとなり、ぼんやりとお互いの顔と、一糸纏わぬ身体を夜闇に浮かび上がらせた。
冒険者が水晶公の裸体を目にするのは初めてだった。これまで彼はローブを脱ごうとしなかったし、冒険者も脱ぐことを求めなかった。
彼の首の側面から肩、鎖骨、右腕にかけてが水晶になっていた。また、服を脱がせる時に、背中の上部が水晶に侵されているのを見た。
彼の水晶の部分が間接灯の光を中に通して薄橙色に染まり、人の身体ではないことを示す。
それでも、彼は間違いなく人だ。
冒険者は水晶公の腕を引き、解かれた髪に口付けを落とした。
「ええと、その……始める前に、一つ頼みがあるんだ」
いったい何を頼まれるのだろうか。もじもじと腕を摩り尾を揺らす水晶公に、冒険者の心拍数が上がる。
「右腕を崩すから、パーツをこぼさないように、この袋を持っていてくれないか?」
水晶公は、枕元に置いていた布袋を冒険者に差し出した。
「……は? いや、崩す必要あるのか?」
ベッドにまで持ち込んで一体何に使うのかと不思議に思っていたが、予想外の用途に冒険者は困惑した。
「この腕では、あなたの素肌に触れることはできない。加減を誤って、傷つけてしまうかもしれないからな。それなら、無い方がいいだろう?」
まるで物のような扱いに、冒険者の表情が曇る。実際、彼にとってはそうなのだろう。
「それに、これを維持するにはエーテルを巡らせ続けなければならない。……あなたのことだけに集中したいんだ」
「……わかったよ」
冒険者は諦めて水晶公に従い、彼の右腕の半分ほどを布袋の口に通した。
水晶公が目を閉じ軽く息を吐くと、水晶で形作られたそれが指先から崩れ始めた。
関節部分は細かい破片がボロボロと、そうでない部分は大きめの塊がゴトリと音を立てて冒険者が持つ袋に収まっていく。
冒険者は、右腕の形をしていたそれらが、ただの石ころになっていくのをすぐ側で見ていることしかできなかった。
「……よし、これで大丈夫だ。できるだけ、断面には触れないようにしてほしい」
残された肩口を指差しながら、水晶公は冒険者に言い含めた。
冒険者はなんとも言えない顔をして頷き、水晶の入った袋を床に置いた。その袋は非常に重く、力自慢の冒険者でさえ両手で持つ必要があった。
「……これで、心置きなくあなたに触れられる」
身軽になった水晶公は満足そうに笑い、おもむろに冒険者の膝に乗り上げてきた。
肩を押されて、冒険者は体を後ろに倒した。隻腕の水晶公がバランスを崩さないように、彼の腰に手を添える。
水晶公は一度深呼吸をしたあと、冒険者の唇に自身の唇を押し当てた。
「んッ……」
唇を喰まれ、舐められるがそれより先には進まない。彼はどうして良いかわからないようだった。
自らを老人と称し、永く生きてきたはずなのに、深い口づけのやり方も知らない。
彼の初々しい部分を目の当たりにして、思わず冒険者の口の端が片方上がった。
「ん。口、開けてくれ」
「……? ッむっ!?」
半分開いた水晶公の口腔に舌を滑り込ませ、そのまま素早く彼の舌を捉える。絡ませたり突いたりすると、もの覚えの良い彼は同じことを冒険者に仕掛けはじめた。
お互いに唾液を交換しながら、じゅるじゅると舌を吸い合う。口の端を溢れた涎が伝う。冒険者の頭と腹の底が燃えるように熱くなった。
水晶公の息も荒くなり、触れる肌が先ほどよりも温かくしっとりとしている。
「ん、んんっ、ふぁ、あ……っ?」
水晶公が何かに気づいたような声を上げたあと、彼の手が冒険者の既に膨らみ始めている分身に伸びてきた。
冒険者は一瞬身をすくめたが、拒むことはしなかった。
「っ……!」
口づけを続けながら、おそるおそる水晶公の指が先端に触れる。それだけで、腰が震えるほど気持ち良かった。
快感は、身体だけで得るものではない。それは身体に欲をもつ自分も同様なのだと、冒険者は実感した。
水晶公におずおずと気持ちいいか?と尋ねられ、冒険者は首を縦に振る。
それに気をよくしたのか、先端を撫でるだけだった彼の手は竿に伸び、ぎこちなく上下に動き始めた。
先走りで濡れた手から、くちくちと音がするのにも性感を煽られる。冒険者は腰を跳ねさせ、ぐうっと唸った。
「あなたに触れられるたび、私も、あなたに触れたくなっていった」
冒険者の雄芯を擦る手を止めずに、水晶公は尾をゆらゆらと揺らし、うっとりとした顔で囁いた。
「今ならあなたの気持ちがわかる。なんというか……いいな、これは」
「ッ……そいつは、なによりだ、なっ!」
自分が散々彼にしてきたことを返されているだけであるが、いざ翻弄されるとやや悔しさがある。
冒険者は負けじと、無意識に内股をすりすりと擦り合わせている水晶公の尻を掴んで、後孔に指をやった。
「ひぁっ!?」
「んっ……? お前、これ」
彼の後孔はすでに潤み、柔らかくなっていた。冒険者の指にとろりとした潤滑剤が滴る。
「ッ……その。もう、解れているから」
冒険者に言及され、自分がしたことに今更ながら羞恥を覚えたのだろう。水晶公の耳がへたりと垂れ、頬の赤みはどんどんと増していく。
水晶公の額が冒険者の額にこつんと当たり、強請るように竿を撫で上げられた。
「はやく、いれてほしい」
冒険者の全身の毛ががぶわりと逆立ち、視界が真っ赤に染まる。眼前の獲物を逃すまいと、がしりと細めの腰を掴み押し倒した。
不意を突かれた彼はうわぁっ!? と情けない声を上げ、冒険者のなすがまま寝台に縫い付けられる。
冒険者は茹った頭で、捕らえた獲物を見下ろした。
シャーレアンの賢人で、クリスタリウムの指導者。自分などよりよっぽど聡明で、偉大な魔導士だ。
そんな彼が、今、蕩けた顔をして自分に組み敷かれている。
隻腕の不自由な状態では、抵抗したところで到底冒険者には敵わないだろう。
冒険者の下腹が昏い征服感で膨張していく。頭の片隅で理性が最低だ、不謹慎だと叫ぶ。
冒険者は両手で水晶公の腿を持ってぐいと割り開き、猛る雄の質量で彼の茎を押し潰した。
「あうぅ……っ!」
彼の雄の機能を放棄したそれは、冒険者のモノに完全に隠れ、見えなくなった。
「……奥まで、いれたい。めちゃくちゃに突いて、お前の中に、全部ぶち撒けたい……ッ」
腰を軽く前後させながら、彼の心を欲で染め上げるべく、自身の獣欲をたどたどしい言葉で分け与える。
「ぅあぁ……あああぁっ……!」
熱い息と共に欲を耳元で吹き込まれた水晶公は、瞳を潤ませぶるぶると全身を震わせていた。
冒険者のモノで隠れた茎が、ひくひくと痙攣し涙を流しているのを肌で感じる。
それが恐怖なのか歓喜なのか、冒険者には判別がつかなかった。
できれば後者であって欲しいと、身勝手に思った。
「っ、それで、お前にも、たくさん気持ちよくなってほしい………」
冒険者は絞り出すような声で想いを溢す。そんな冒険者を、彼は眩しそうに目を細めて見つめていた。
だから、いちばん憧れの英雄なんだと冒険者の髪を撫で、片腕で背を抱く。
「私なら、大丈夫だから。……あなたの好きにされたら、きっと気持ちいい」
「ッ!!」
冒険者の頭の中で、バチンとなにかが弾ける音がした。
喉をぐるると鳴らし、もの欲しそうに開閉していた彼の後孔に、丸い切先を押し込んだ。
「~~~~っっ!!」
水晶公の背と喉が大きく反った。晒された喉仏が、何故だかおいしそうに見えた。
冒険者がそこにかぶりつくと彼の中がぎゅうっと収縮し、亀頭が刺激される。なけなしの理性が快楽に押し流され、たぎる熱で一気に隘路をこじ開けた。
「ぅあぁあっ!!」
「く……ぅうっ!」
慣らされきっていた蜜壺は、すんなりと冒険者の熱を全て受け入れた。肉の輪と内壁が、ぎゅうぎゅうと冒険者を抱きしめる。
「は……っ、はらのなか、あなたで、いっぱ……ぁううっ!?」
ぼろぼろと涙を流しながら自らの下腹を撫でている水晶公に構いもせず、冒険者は腰を打ちつけた。
平時であれば水晶公の頭の一つでも撫でているはずだが、そのような余裕はなかった。
冒険者は水晶公の腿を彼の胸側に押し広げ、繋がった部分を上に向かせる。
彼の腰が浮き、力のない茎が重力に負けてだらりと腹側に垂れた。
「えっ……あ……?」
これから何をされるのか、水晶公には予想がついていないようだった。彼はただ、息を荒げてのしかかってくる冒険者を見上げている。
冒険者は抜けないギリギリのところまで怒張を引き抜き、そこから一気に水晶公を貫いた。
「ぁうあああっ!?」
冒険者の陰嚢が結合部をべちんと叩くと、水晶公の腰が悲鳴と共にがくがくと揺れ、尾がぶわりと膨らんだ。逃がさないように更に体重をかけ、彼の腿と自身の腿をぴったりと密着させる。
「ひあ゛ッ! ぁ! あああッ! すごっ、とまんなっ、ぅああああ……!」
ひと突きするごとに彼の茎からぷしゅぷしゅと透明な液体が吹き出し、絶頂していることを示す。
水晶公の足腰は、存外しっかりと冒険者の体重を受け止めていた。冒険者の律動に合わせて腰をゆすってさえいる。
思えば彼だって、人並み以上に鍛錬を積んでいるのだ。
これなら遠慮する必要はなさそうだ、と冒険者は舌なめずりをして更に彼の中を容赦なく掘削した。肉と肉がぶつかり合う音がする。
「ッ……! ふぅうッ!」
「い゛っ、あ、あぅうっ!」
涙と涎でベタベタになり、悦楽に塗れた水晶公の表情が眼前にある。普段の落ち着いた様子からは、想像もできないような喚き声が耳に飛び込んでくる。
視覚から聴覚から入ってくる情報は、全て快感に変換されて雄を増長させた。
まだ彼が欲しくて、水晶公の口を塞ぎ舌を絡めとる。思い切り吸い上げると、下の口が嬉しそうにきゅうきゅうと締めてきた。
「んむっ! ん、ぁふ、んんん……ッ!」
彼の片手が冒険者の髪をくしゃりと掴み、お互いに貪りあう。背骨が溶けそうなくらい気持ちよかった。
「んッ、うぅっ……!」
冒険者の絶頂が近くなり、射精することしか考えられなくなる。水晶公から口を離し、彼の腰を掴み更に律動を早めた。
拡がり切った後孔からぐぽぐぽと陰茎が出し入れされる音と、張り詰めた嚢が水晶公の尻にべちべちと当たる音が響く。
「んぁあ、あ゛、はやく、なか、欲し、あぅああ……ッ!」
「ぐっ、うぁ、~~~ッッ!!」
冒険者の全身が大きく震えた。
続けて雄芯が痙攣し、精を水晶公の胎の中にびゅるびゅると放つ。尿道を通るそれはもったりと濃く、容易には体外へ出ていかないだろうとわかった。
水晶公もそれを受けて、透明な液体を茎から弱々しく吐き出し、自らの腹を濡らした。
「はー………っ……」
欲を開放し、冒険者は我に返った。目の前には冒険者に腰を掴まれたまま、脚を開いてくたりとした水晶公が横たわっている。
「ッ、大丈夫か!? わるい、俺……」
冒険者は慌てて水晶公の顔を覗き込む。
その表情は、恐怖でも嫌悪でもなく、恍惚だった。
脚と尾をゆったりと冒険者の腰に絡ませ引き寄せて、彼は口を開いた。
「んっ………へいき、だから。もっと、したい」
夜が更けてもなお、交わりは続いていた。
水晶公はベッドに上体を預け、冒険者の膝に臀部を乗せてゆるゆると揺さぶられている。
冒険者は先端で彼の熟れた泣きどころをぐっと押し込み、雁口でこりこりと擦ってやる。
すると彼の薄っすらと割れた腹筋が引き攣り、腿はがくがくと揺れた。茎だけが、全て出し尽くして力なく垂れ下がっている。
「あうぅ……っ! ぁ、は、もっ、でないのに、きもちい……ッ」
「んっ……俺も、きもちいい……」
度重なる絶頂で脱力しきった彼の胎の中は、ふわふわとしていた。それでいて冒険者が陰茎を前後に動かすと、繋がっている部分が精を絞りとろうとするようにきゅうっと締まる。
離れたくない、ずっとこうしていたいと思うくらいに心地よかった。
それを言葉にして伝えると、水晶公の様子が変わった。
目を見開き、肩をわなわなと震わせている。
「っあ……ぁああ……」
彼は冒険者の名を呼び、身を捩った。右腕がないので、うまく起き上がることができないのだろう。右肩の断面を寝台に押しつけながら、震える左手を冒険者に向けて伸ばしている。
冒険者が前に屈んでその手を握ると、彼はぽろぽろと涙を流しながら冒険者に希った。
「なまえを、呼んでくれ……っ」
冒険者は頷き、彼の通称ではない、個人としての名を呼んだ。
グ・ラハは何度もうん、うんと言いながら冒険者の首に左腕を回し、抱きついた。
それでも水晶の部分が触れないようにと僅かに身体を離している姿に、冒険者の胸が締め付けられる。
「オレ、あんたともっと一緒にいたかった……! 今も、もっと一緒にいたい……」
「うん……」
冒険者は応えるようにグ・ラハの頭を抱いた。
「オレっ……あんたと、………っ! ………!」
グ・ラハはなにかを言いかけたが、眉を顰め、苦しそうに言葉を途切れさせた。
冒険者は彼が飲み込んだ言葉を聞き出すこともできたが、それをしなかった。
自分だって本当の気持ちを言葉にするまで時間がかかり、彼をずいぶんと待たせてしまった。
だから、彼が心を決めるまで、待ち続けよう。
そんな想いを込めて、はくはくと動くだけの彼の唇を冒険者は指で閉ざした。
「んぅ……?」
グ・ラハはただ不思議そうにこちらを見るばかりで、きっと冒険者の意図は理解できていないのだろう。それでも良いと思った。
そのまま、グ・ラハの唇を奪う。何度目かもわからないそれを、彼は受け入れてくれた。
冒険者は再び快楽で溺れさせるように舌を絡め、律動を始めた。
◇◇◇
冒険者が眠りにつくのを見届けた頃には、空が白み始めていた。
水晶公は隣で満足そうに眠る冒険者の髪をひと撫でした後、彼を起こさないようにベッドからそっと降りた。
腕の水晶が入った袋を持って近くの椅子に座り、黙々と右腕を再構成する。服を着直し、静かに冒険者の部屋を後にした。
足早に塔へたどり着き、深慮の間へ入って鍵を閉めると、水晶公はその場にしゃがみ込んだ。
「はぁっ…………」
まだ身体が熱い。ひと晩中彼と交わったのに、全く足りない。
身体の欲は吐き出せばそこで終わりだが、心の欲には際限がなかった。穴の空いたバケツに水を汲んだところで、決して満たされることはないのと同じだ。
水晶公と呼ばれるようになり、自らの命をもって英雄を救うと決めてから、グ・ラハ・ティアは胸の奥でずっと眠っていた。
『大地を駆けて、海を渡り、ときには悠久の風に乗って空へ――』
コルシア島で冒険者を前にしてそれを口にしたのは、眠ったまま死にゆくグ・ラハ・ティアへの手向けのつもりだった。
しかし、彼の呼び声によって『オレ』は目覚めてしまった。もう、眠らせておくことはできない。
胸の奥に閉じ込めたはずのほんとうの欲が叶うか、潰えるか。それが決しない限り、この懊悩は終わらないのだろう。
床に伏せると、ひやりとした感覚が心地よかった。しかしそれは、熱が床に移るまでのわずかな間だけであった。
「んっ……」
下着越しに彼と繋がっていた場所に触れると、先ほどまでの幸せな時間が思い出されて、胎の奥が切なくなる。
いつまで、彼と一緒にいられるのだろうか。
塔の端末となり行動できる範囲が限定されたこの身体では、彼と共に行くことができない。
それに、遅かれ早かれ、いずれは全身が水晶に侵されるだろう。
エメトセルクに撃たれ、檻から脱出した際に身体を酷使した。その影響で、水晶の侵食は一気に背にまで広がっていた。
「ぁ、うぁ……はぁあ……」
下着の上からの刺激では到底物足りず、腰だけを高く上げて直接後孔に指を潜り込ませる。
指を出し入れすると、彼の残滓がどろりと垂れて腿を伝った。
「っぐ、ひ、うぁああッ……!」
暁の皆の魂が無事に帰還するのを見届けるまで、水晶公としての責務を果たすまで、本当の願いを口にすることはできない。
冒険者は、誠実だ。それに比べて、欲深さを曝け出せない自分が、ひどく卑怯で醜く思えた。
……それでも、もし。なにか方法があるのなら。その時は――
彼がしてくれたように、胎の中の一点を指で押し込む。
勝手にがくがくと腰が震えて、眼前で星が散る。
グ・ラハはその星に向かって、手を伸ばした。
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